刊行簡介
本シンポジウムは、二十一世紀に向け、台日関係の新たなるありかたを模索する事を一つの目的としつつ、台湾と日本の関係を学術的側面から、多角的に検討をくわえ、そうして相互に得られた台湾と日本の理解を通じ、今後、台日の共同研究を含めて、学術研究がさらに実りあるものになることを願い、このシンポジウムは開催された。本学中国文化大学は、歴史的には大学における日本語教育を台湾で最初に開始した教育機関であり、以来三十八年にわたり、大学での教育、また、大学院での日本関係研究を通じ社会に貢献してきている。このように台湾において日本語教育、日本研究においてパイオニア的存在である本学が、このシンポジウムを開催したと言うことは、本学はもとより、台湾における日本語教育、日本研究に従事なされて
おられる研究者、第一線でご活躍の先生方、並びに、大学などの研究機関にとっても非常に意味のあるものであったことは言うまでもなかろう。また、本シンポジウムには、はるばる韓国、シンガポール、香港よりおいでいただいた研究者の方々、並びに、日本からの四十名を越える研究者の方々よる非常に先進的、かつ高度な専門性ももつ精緻なご発表、また、パネルディスカッションで未来に向けての先見性のある討論がなされたということは、国際シンポジウムの名にふさわしいものであった。
本シンポジウムの内容を簡単にご紹介申し上げると、まず、東京大学名誉教授衛藤瀋吉氏による、「世界史における日本-過去と未来-」と題された総合基調講演では、〈文明圏の中心と周縁〉という観点から漢文明と欧米文明という両圏内にある日本の両義的な存在意義のついて述べられ、今後の日本と漢文明圏との関係を占う上で重要な過去認識が明らかにされる同時に、本シンポジウムにおけるあらゆる分野での共通の問題意識をご提示なされた。また、もう一つの総合基調講演、平成国際大学学長・中村勝範氏による「運命共同体としての日本と台湾」では、維新前後の日本政治における歴史的研究に踏まえた現状を述べるとともに、「日台両国の関係研究」の分野における認識を明らかになされた。
また、台湾側からは、亜東関係協会会長・林金莖氏による特別講演「日華関係の回顧と展望」においては、長年にわたって政治・外交の第一線でご活躍なされていらっしゃる林氏はが、長年にわたる実体験を通じ、台湾と日本の関係において象徴的な事実をもとに、非常に精緻なご指摘なされた。また、「日本研究」「台日関係」の分科会、パネルディスカッションでは、上述 の基調講演、特別講演をふまえ、政治、経済等の側面より、高度な専門性をもつ発表、討論が行われた。
さらに、本シンポジウムで、発表者二十余名という最も大きな規模となった「日本語教育・教学」の分野では、立教大学大学院で比較文明論の講座を担当なされておられる田中望氏が、「日本語教育の再構築」と題するご講演では、日本人が日本人であることによって、日本語教育を行うという意識を改革するべきだとする画期的な視座をご提出になされ、これまでに見られることのなかった最新の知見を踏まえた全く新しい観点からの日本語教育の目的意識を提示なされた。また、本シンポジウムでは、韓国、日本、シンガポール、香港、台湾よりの発表者の方々より、各地域における現状が詳細に報告され、各国で行われている日本語教育の現場2で、多彩な取り組みがなされていることを知ることができたことは、国際シンポジウムならではの収穫であった。
その他に、日本研究と台日関係との文化的側面から補完する分野としての「日本文学・台湾文学」での分科基調講演として、二松学舎大学副学長 今西幹一氏は、「台湾における特殊な文芸現象について~『台湾萬葉集』についての苦渋的考察~」と題する講演をなされ、近くて遠い日本と台湾との精神的距離の再確認を述べられた。研究発表では、「日本文学」における近代短歌と近代小説との研究によって、台湾を意識しない純然たる文学発表に実情が垣間見え、それによって、パネルディスカッション「台湾における日本文化の研究とそのあり方について」の方向性が確認された。一方、江戸文学(『国性爺合戦』)と「台湾文学」の発表によって、概ね台湾と日本とにおける文化交流の意義が瞥見しえ、パネルディスカッション「これからの台湾文学研究の歩むべき道」での討論へと昇華したと認められよう。
本シンポジウム開催の意義が、二十一世紀にいたっても朽ちる事のないものであることは、明らかである。
最後に、論文集の刊行にあたり、本シンポジウム開催に対し多大なご支援、ご助力を賜った方々、諸団体に対し心より御礼を申し上げるとともに、本シンポジウムで研究発表をなされ、原稿の執筆をご快諾いただけた研究者の方々、また、お忙しいにもかかわらずご参加くださった方々に、衷心より感謝申しあける。
中国文化大学
日本語文学系主任
日本研究所所長 徐興慶
2000年 7月陽明山にて